080820:0143

地下鉄の定期券の期限が切れていたので、切符を買って乗車したところ、理想的な無くし方をした。

  • 右のポケットに指をつっこむ → 指先にヒットせず
  • 左のポケットに指をつっこむ → ツーストライク
  • 後ろのポケットに指をつっこむ → 何か指先にかかるものあり!!
  • 右手に握りしめられたヨドバシカメラのレシートを見つめる → バッターアウト
  • 改札口で駅員さんに声をかけようとしたら、三人組の中年女性が駅員さんに大阪城へ行く方法を尋ねていた。駅員さんは「知らんがな」と言いたそうだったけれど、結局5分以上もの間、売れ残った魚のような目で中年女性たちの相手をしていた。

    僕はその会話が終わったのを見計らってようやく駅員さんに声をかけ、「……あったかい てぶくろを ください」と、間違ってキツネの方の手を差し出してしまったのだけど、すぐさま根本的にストーリーの分岐を誤った事に気がつき、「あの、すみません、切符をなくしました」と人間の声で言い直した。数秒の間をおいて、「……本当にないの?」と非常に疑わしそうな顔。「どこ探してもないの? ポケットとか鞄の中とか見たんだよね?」と怒濤の勢いで質問されたので、「はい、すみません。全部探してバッターアウトになりました(意訳)。本町から乗ったので……」と言って財布を取り出した。
     すると駅員さんは思いがけない事を言った。「あのねー、切符はなくさんといて下さい。本当はお金払ってもらわないとあかんねやから」と、ひどく面倒な作業を背負わされたような声で、僕にさっさと改札を通るように促したのだ。僕は話の展開が飲み込めず、「……いや、ですから、改めて今、お金を払います。何倍かの料金になるんだと思いますけど、幾らですか?」と尋ねたのだけど、どうも駅員さんに取ってはそのやり取りそのものが面倒なようだった。「もう今日はいい事にしとくから通って。切符くらいなくさんといてや」との事。あれ? 今どこかでカチンって聞こえたよ?

    そもそも迷惑の根源は僕にあるとわかっている。わかっているのだけど、なんだか必要以上に不愉快な対応だったので、「……そもそもあなたは完璧な人間なんですか? 今まで一度も切符をなくした事がないんですか? 」と、『愛という名のもとに』の鈴木保奈美さんの名台詞を必要以上のうろ覚え具合で吐き出そうかと思ったけれど、しんどいのでやめた。すげぇ納得いかない表情で「わかりました」と言って改札を過ぎた。

    手ぶくろを買いに』という絵本の最後は、母キツネの台詞、「にんげんはほんとうにいいものかしら」で終わる。


    080819:0058

    昼休み。紀伊国屋から出る自動ドアの、ちょうど顔の面するあたりが鏡のようになっていたので、さきほどから痛む右目のフチを指で広げるようにして覗き込んでいたら、唐突にドアが開いてサラリーマンらしき人が現れ「うわっ」みたいな表情をされた。

    そりゃまあそうだ。サラリーマン氏にしてみれば、ドアが開いたらいきなり対面から「あっかんべぇ」みたいな状況である。それも表情はあくまで真顔。真顔の「あっかんべぇ」ほど救いのない表情というのも、世の中には少ないだろう。

    結局、向こうが小さな声で「すみません」と添えて通り過ぎたわけだけど、その声が過ぎても、僕はまだ右手を添えたままでいたよ。


    080818:0029

    結局、どれだけあがいてみたところで、俺ひとりの力では世の中から戦争や貧困や腐敗した政治や残業を払拭することなどできやしないと気づき、22時半に帰宅した。

    家の扉を閉めた瞬間、電池を買って帰るのを忘れた事に気づき、自嘲するように吐き出した吐息は鉛の色。カーテンの向こうに見える霞む月は、いつか戦地に見た安宿の燭台を思い起こさせた。ウイスキーを切らしていたので、俺は軽く舌打ちを鳴らして朝食りんごヨーグルトを食べた。「おいしいなぁ」とつぶやいた声に、乳酸菌の残像。月はまだそこにあったが、新しい電池は家中のどこにもなかった。


    080817:2022

    ネパールの民族音楽とWilcoを交互に聞きながら仕事を続けていたら、自分がどこにいるのだかわからなくなってしまった。のだけど、空腹である事はわかったので18時くらいにコンビニエンス・ストアへ行った。

    ふと冷静に考えてみれば、午前9時くらいに奥様の焼いたDVD-R……、じゃなかった、ホットケーキを食べて以来、何も食べていなかったのだった。世界中の人々に見守られてプレイしているであろう五輪選手たちは偉大だ。と、乳飲料とミネラルウォーターに見守られながら仕事をする僕は思う。


    080817:1516

    日曜日なので気分転換に事務所で仕事。脳裏に浮かぶのは既視感という三文字。おそらく今夜も電池を買い忘れるのだろう。


    080817:0127

    そのまま朝まで会社に居ようかとも思ったのだけど、土曜の夜はシンセサイザーで遊ぼうと決めていたので、23時に帰宅した。そして、電池を買ってくるのを忘れた。しばらく放心してから「よし、自決しよう」と思ったけれど、それだと恋のメロディを奏でる人がいなくなる。それは困るので遊ぶのは来週に延期。

    帰宅して、10日ぶりにデータをバックアップし、DVD-Rを焼いた。僕はホットケーキよりもDVD-Rを焼く方が得意である。誰に言っているのでもなく。

    帰りの電車の中で町田康の『浄土』を読み終えた。Amazonのレビューにもある通り、このくらいの長さの短編集が、この人のロックを一番感じられやすいように思った。中でも「あぱぱ踊り」と「自分の群像」の二編が、特に鋭くて痛かった。


    080816:2045

    ひとつのバグを解決するのに4時間かかった。解決したあとも納得がいかず、幾つか際どいパターンをテストしてみたものの、空しい。

    机の上がよくからない状況になってきた。そもそも机の上の状況をわからなければいけないのか否かもわからない。左に積まれているのは僕が「パーフェクトです」と言って提出したテスト結果で、幾つか挟まれた付箋は、その提出物を念のためチェックしてくれた後輩N嬢が「ここちょっと変じゃないですか」と指摘してくれたもの。そのクールな仕事振り、もはや後輩を通り越して先輩である。よくわかんないけど。


    080816:1740

    宮崎駿監督の最新作『崖の上のポニョ』のキャッチコピーは、「生まれてきてよかった」であり、押井守監督の最新作『スカイ・クロラ』のキャッチコピーは、「もう一度、生まれてきたいと思う?」である。

    映画作品というものをひとつの生命現象と仮定するならば、前者は観客に「観てよかった」と思われる事を期待して製作されたように思えるし、後者は「もう一度、観たいと思う?」とどこまでも問いかけて答えを委ねているように思える。

    観る前から決め付けてしまうわけじゃないけれど、予感として、僕はどちらも面白いんだろうなと期待している。でも、もしこのアニメーション映画界にとって最も熾烈な時期に、「生まれてきてもこなくても、どっちでも良かった」みたいなキャッチコピーを掲げて鮮烈に上映開始される映画があれば、僕は迷わずそれを観たと思う。ファンの方には申し訳ないけれど、僕としては、『クローン・ウォーズ』あたりに、強く「うわー、観ても観なくても、どっちでも良かったー」的な雰囲気を感じるのですが。映画作品をひとつの生命現象と仮定するならば。


    080816:1410

    土曜日。事務所。黙々と二人。

    会社のPCが使いにくい原因の7割はキーボードにあると考えて、自分用に、非常に評判の良いThinkPad(Lenovo)のトラベルキーボードを買った。快適。普段からトラックポイント操作が身に付いているので、思い通りにすいすい動く。

    驚いた事に、トラックポイントと左クリック/右クリックボタンがMac上でも認識されていて、きちんとそれに応じた挙動を示した。即座にCapsLockとControlのキーアサインを入れ替え。仕事が終わったら真面目に調べてみよう。


    080816:0255

    23時半に帰宅して何通かメール。プログラミング関連で勉強していたら2時半になっていた。またしても極端に日本語の文献が少ないジャンルで、プログラミングの勉強をしているんだか英語の勉強をしているんだかわからない。きっと恋の予習をしているんだね。

    MobileMeを使用するようになって、iMacを使用する頻度があがった。これまでは、24インチは考えるまでもなく快適ではあるものの、やはりiMacを使うたびにMacBook Proとの間でデータのやり取りを考えるのが面倒だったのだ。MobileMeのおかげでメールは完璧に同期するし、軽いデータならiDisk経由。快適。

    二週間ほど悩んだ末、『大人の科学マガジン シンセサイザー クロニクル』を買った。明日の夜に組み立てる予定。きっと恋のメロディが鳴るんだね。


    080815:0655

    四年間、僕の溢れんばかりの頼りなさを一身に受けてきた後輩が作業場を移る事になったので、比較的しんみりと挨拶の言葉を並べていたら、「荷物の整理があるのでまた来ますけど」と言われた。「じゃあさっきのしんみりを返せ」と即座に思った。

    お盆休みで阪急電車のダイヤが変わっていた。「うわ、やばいじゃん。遅刻じゃん」と都内の高校生風に慌てていたら、いつもより5分遅く乗り込んだ電車がいつもより10分以上早く大阪に着いた。僕は普段、特急だとか準急だとかに乗らないのだ。「セーフじゃん」と思った。


    080814:0005

    先日の健康診断で、視力が落ちていたことがやや悲しかったけれど、どう考えてみても視力を回復するような機会が生活の中にない。「ときどき遠くを見る習慣を持つと良い」と聞いたのを思い出し、職場でぜひとも実践してみようとしたところ、ビルが工事中でこちらの窓は一日中薄い膜で覆われているのだった。そんなのってない。

    小野不由美さんの『黒祠の島』を読み終えたので、町田康の『浄土』を読み始めている。なぜか自然と小野不由美さんは「さん」付けで呼び、町田康にそれをしないのは、後者がロックだからだ。

    気がつけばくるりの「さよならリグレット」というビデオが販売されていたので、購入。好き勝手やっていて楽しい。

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